設立趣旨・設立時会長スピーチ

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設立趣旨

私司法アクセス推進協会は、日本における司法アクセスの充実を図り、法的問題を抱えた国民が容易かつ迅速に司法的救済を受けられるための普及啓発、調査研究並びに教育研修を推進することにより、人権の擁護に寄与することを目的とする。

設立総会(2008年7月)における小堀樹会長(元日本弁護士連合会会長、元法律扶助協会会長)スピーチ

 皆様、本日はご多忙の中、司法アクセス推進協会の設立総会にご参加いただきましてまことにありがとうございます。発起人の一人であります私から、本協会の設立にいたる経緯につきまして、ご報告申し上げます。
 平成18年の4月に、日本司法支援センターが設立され、同年10月からその事業を開始したことにより、財団法人法律扶助協会が55年にわたり実施して参りました民事法律扶助事業は支援センターに引き継がれました。そして、扶助協会は昨年3月、刑事被疑者弁護援助、少年保護事件付添扶助、外国人法律援助など、その他の事業を日弁連に引き継ぎ、その目的を達成したものとして解散をいたしました。
 日本司法支援センターは、民事法律扶助をはじめ、すべての国民を対象とする情報提供や犯罪被害者支援、国選弁護の弁護人候補者の推薦など、多岐にわたる司法関係のサービスを総合的に行う組織として発足したものであり、とりわけ、法的情報の提供は法律扶助協会関係者が永年にわたってその必要を訴えてきたものでした。また、被疑者段階における刑事手続の援助も、部分的にではありますが、弁護士会等の永年の努力を基礎にとりいれられたものであり、これらは民事・刑事の法律扶助にたずさわってきた弁護士会の関係者にとっても画期的な内容をもつものでありました。さらに、扶助協会が永年にわたり苦慮してきた運営費についても、公的組織の経費として国の資金が提供されました。
 日本司法支援センターは業務開始後1年半を過ぎましたが、その成果は期待どおりのものがあります。
 民事法律扶助の件数は平成18年度では年間65,073件、19年度では73,107件となり、扶助協会が実施していた最後の年の17年度と比べますと19年度では22パーセントの伸びを示しております。とりわけその伸びは従来ともすれば制度の遅れが指摘されてきた地方都市を抱える地域で顕著であります。
 情報提供業務は、19年度において、コールセンターの実績が22万件となり、やや実績の伸び悩みが伝えられていますが、こうした施設が日本に誕生したことだけをとっても、大きな制度的前進ということができるだろうと思います。
 また、支援センターは弁護士を直接雇用してサービスを提供する常勤弁護士の制度をスタートさせましたが、19年度までに約100人が常勤弁護士として勤務しており、弁護士過疎地や離島での目覚しい活躍など、今までの法律扶助ではできなかった活動が伝えられております。
 一方、その将来に向けた展望としては、いくつかの不安も語られております。国民のみなさんが支援センターを知っているかどうかという点について、調査の結果は約2割の認知度にとどまっているという報告があります。また当初100万件以上の実績が期待されたコールセンターも、実績の伸び悩みが伝えられる中で、早くも規模の見直しが伝えられております。
 運営の枠組みとして、独立行政法人の手法が取り入れられたために、所管の官庁である法務省の事業管理が強化され、法律扶助協会の時代と比べて大変窮屈な運営になっているという声も聞こえております。
 私たちは、法律扶助協会から支援センターに事業を引き継いだ当事者として、支援センターの事業の成功を祈ってまいりました。そして折にふれ、弁護士会館において、支援センターの事業のあり方について意見を交わしてまいりました。
 その結果、私たちは一つの結論に到達いたしました。それは、この事業、支援センターの実施する総合法律サービスは、サービスの主たる担い手である弁護士と司法書士が進んで事業に参加し、サービスを提供することなしには成功しない、ということであります。
 法律扶助協会は、日本弁護士連合会により設立され、その運営が各地の弁護士会により支えられていたために、ややもすれば弁護士の立場からの事業運営に傾きすぎるという批判があったことは、皆様周知のとおりであります。支援センターによる事業運営は、こうした批判に対するものとしても注目されたのでありますが、今のところ、そのプラス面、すなわち社会の各層から強い支持を得ながら事業を拡大していくという観点からは、事業的にも、財政面でもいささかの不安を抱えております。
 また、事業に対する国の資金支出は、19年度では約102億円となっていますが、人件費等を除く民事法律扶助だけについてみると、償還金以外に、新たに提供された資金は40数億円にとどまっており、扶助協会時代とくらべてほとんど増加していません。
 もっとも懸念されることとして、実際にサービスを担当する弁護士の間から、支援センターになって刑事事件の報酬が減額されたという声が強く寄せられるなど、センターの事業運営については多くの不満が聞かれるのも事実です。来年5月に迫った裁判員制度の出発に対しても、これに対応する十分な数の弁護士が各地で参加してくれるかどうかについて、不安は残っております。
 こうした現状に対して、支援センターの役員の皆様は懸命な改善努力をされており、その結果、たとえば国選事件報酬の回復などが実現されておりますが、私どもは民事法律扶助事業にかかわった者として、この事業の安定的拡大に向けた体制整備に側面から協力をしていく必要があろうかと思います。法律扶助を要する依頼者の方に対する援助の推進、弁護士・司法書士に対しての啓発と制度利用の勧めなど、この公的な事業の推進に貢献できることは多々あるのではないかと考えます。
 他方、司法アクセスの整備・拡充はいまや世界各国の共通の関心事であり、ITの活用による法律情報の迅速な提供とともに、自分で軽微な法的問題を解決できる方法の提示や、援助の試みも各国で進められております。
 日本の法律扶助の先駆であります小島武司先生は、裁判所による紛争解決を中心軸におきながらも、多様なADRを配置した、紛争解決のプラネタリウムという提案を早い時期からされましたが、こうした多様な紛争解決の利用を推進し、正義への多面的アクセスを図ることも、これからの大きな課題であろうかと思います。
 また、複雑多岐にわたる現代の法的関係の中で、知識を持たない人が日常生活において思わぬ損害をこうむることのないよう、法教育活動としても工夫をしてゆく余地があるのではないかと考えます。
 日本の司法アクセかが抱える問題はひとり支援センターの役・職員のみなさんに委ねるだけでは解決しません。支援センターの発足に少なからぬかかわりを持ったものとして、私どもにはその事業理念を現実のものにしていく必要があるものと考え、本協会の設立を呼びかけることといたしました。
 当協会はこうした経緯から、東京在住の元法律扶助協会関係者という、極めて限定されたメンバーにより発足するわけでございますが、もちろんメンバーや事業については今後全国の皆様によびかけ、いわば会員による司法アクセス・ネットワークを作って参りたいと考えております。
 皆様のご尽力を心よりお願い申し上げます。